日本会計研究学会学術褒賞

鳥羽 至英氏(早稲田大学総合研究機構 招聘研究員)

授賞理由

1.ご経歴 

 鳥羽先生は、1969年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、同大学院商学研究科に進学・修士の学位を取得された後、1972年から74年までインディアナ大学経営大学院に留学しMBAの学位を取得した。帰国後には早稲田大学大学院商学研究科の博士課程に進学し、1976年に東京都立商科短期大学にご着任、1978年には専修大学に移られた。2005年には早稲田大学商学部教授に就任され、2017年に同大学を定年退職された後は、2022年まで国際教養大学で客員教授・特任教授を務められた。2025年現在は、早稲田大学総合研究機構において招聘研究員のお立場にある。

2.受賞業績

(1) 研究活動

 先生の代表的な学術貢献は、監査証拠論をはじめとする監査理論の体系的構築である。証拠の概念を理論的に深化させた功績は、『監査証拠論』や『監査基準の基礎』に代表される一連の著作として公表されている。先生は一貫して概念研究の重要性を強調され、これまで、監査証拠のほかにも、内部統制、アサーション、職業的懐疑心、スチュワードシップといった基礎概念を対象に、概念研究に取り組まれてきた。

 研究の国際化にも重きを置いており、1975年、1977年にThe Accounting Review誌に論文2本を公表された。1975年に公表された論文では、アメリカ会計学会のCompetitive Manuscript Awardを受賞している。その後も、海外の監査研究者とも活発に交流を持ち、先生の築かれた広範なネットワークによって、2012年にはInternational Symposium on Audit Research (ISAR)の早稲田大学での開催も実現している。

 本学会においては、1978年に「財務諸表監査における⽴証プロセスと究極的要証命題の構造」で学会賞を、1993年に『監査基準の基礎』で太田賞(現 太田・黒澤賞)を受賞している。そのほかにも、『監査証拠論』で日本公認会計士協会の学術賞を受賞しており、さらには2024年に出版された『世界の監査史』で、2025年度に、ふたたび同賞を受賞している。

(2) 教育活動

 学生に対しては、監査実務に触れたことのない学生の学びに資するよう、事例研究に取り組み現実の事象を通じて理論の意義を考える姿勢を育んだ。また、海外の著名な研究者を大学に招いて、国際的な学術水準に学生を触れさせるなど、教育においても視野を海外に向けることの重要性を強調された。

 後進の研究者に対しても、30年以上前から監査に関する研究会を主催されており、長年にわたり、日本の監査論研究における人材育成に大きく貢献されている。

(3) 学会活動

 研究活動・教育活動と不可分であるが、本学会に対しても、年次大会の統一論題でのご報告や座長も務められるなど、他大なるご貢献を頂いた。

 以上説明したように、監査領域における基礎概念の研究は後進の研究の大きな礎となり、また先生の研究の国際性の高さは後進の研究者に大きな刺激を与え、多大なる影響を我々後進の研究者に与えてきた。さらには、長年にわたり研究会を主催するなど、若手育成にも尽力された。これらの点から、先生が会計学の研究、後進の教育に貢献され、そのご貢献が日本の会計学研究の発展に大いに寄与したことは明白であり、これら長年のご貢献は、本褒賞を授賞するに相応しいものである。